以下:ヒンドゥー教 インドという謎 (講談社選書メチエ)
から抜粋

インドは宗教の国であり、修行の国である。
古から、釈迦をはじめ実に多くの人々が、悟りや神秘力の獲得をめざして、出家し苦行に身を苛んできた。
今でもその伝統は息づいている。
一般の人々のあいだでも、食事の制限などのかたちで戒律を守っている人は多い。

とても厳しい菜食主義者、特にジャイナ教徒のなかには、タマネギ、ニンニク、トマト、イモなどを一切とらない者もいるらしい。
日本人からは紛れもなく「菜食」と映るのに、どうしたわけだろう。
不殺生を徹底して守るジャイナ教では、土を掘り返して収穫する野菜を避ける傾向がある。
掘ることで、うっかり土のなかの生き物を傷つけてしまう恐れがあるからだ。

さらに、これらの食べものは皆、植物の栄養や生命力が集中・凝縮した部分と言えなくもない。
いわば命を宿した部分なのだ。
タマネギやニンニクは、その球根部分を食べるから「根菜」と呼ばれる。
球根は、そのまま土に埋め、水をかけてやれば、やがて芽吹き再生することができる。
イモも似ている。芽のついた部分をいくつか含むいくつかの塊に切り分け、土に埋めれば、それぞれちゃんと芽吹いて再生する。
トマトの場合はそうはいかない。トマトが厳しい菜食主義者に敬遠されるのは、おそらくその色、血液を連想させる真っ赤な色彩のせいでもあるのだろう。
インド人は昔から、血による汚れを極端に嫌ってきた。トマトの色は血を連想させるのだ。
このように、我々からは疑いなく菜食の材料と思われるものであっても、種類によっては遠ざけられる場合もある。

2000年ほど前に作られた『マヌ法典』という書物にも、ニンニクとタマネギが、ニラやキノコとともに、バラモンが食べてはならないものにあげられている(五・五)。
どれも臭いがきついせいか、汚れから生じたものと考えられていたようだ。
同じ書物の別の箇所では、ニンニク、タマネギが、豚や鶏と同列に論じられ、食べることが戒められている(五・一九)。

ヒンドゥー教 インドという謎 (講談社選書メチエ)