はじめに「菜食」ありき
以下:ヒンドゥー教 インドという謎から抜粋
南インドのタミル語では「菜食(主義)」のことを「サイヴァム」という単語で表す。
これは「シヴァ教徒」「シヴァ信者」の意味にもなる。
「菜食主義者」がなぜ「シヴァ教徒」と呼ばれるか、理由はよくわからない。
それに対して、「肉食(主義)」のことは、「アサイヴァム」という。
「ア」は否定を示す接頭辞だから、直訳すれば「非菜食(主義)」(または「非シヴァ教徒」)ということになる。
つまり「肉食(主義)」という独立した概念は無いのだ。
あるのは「菜食」と「非菜食」、つまり「菜食」とそれ以外のものだけである。
事情はヒンディー語でも似ている。
ヒンディー語では、面白いことに、「菜食(主義)」のことを(シヴァ教徒のかわりに)「ヴィシュヌ教徒」と表現する。
ヴィシュヌとは、シヴァと並んで人気のある神様のことである。
しかし、原理はタミル語の場合と同じである。
つまり、まず「菜食」の概念があって、その次に「それ以外の食事」の概念があるのである。
考えてみると、欧米でも「肉食」とか「肉食主義」という言葉はあまり使われない。
たとえば英語の場合、「菜食主義者」のことを「ヴェジタリアン」と呼ぶが、それと対をなす「肉食主義者」を表す特別な単語はない。
(「ノン・ヴェジタリアン」という言葉を使いそうだが、これはインド英語であって、本場の英語では一般的ではない。)
ここでも、やはり「菜食」の概念が先にあるようにみえる。
しかしこれは、西洋で肉食がきわめて当たり前の現象だから、わざわざ「肉食主義(者)」という表現がないにすぎない。
西洋では、菜食主義が例外的だからこそ、「ヴェジタリアン」などと、特別の言われ方をするのである。
英語では、19世紀半ば近くに、はじめて「ヴェジタリアン」の語が現れる。
次回はエッグタリアンについて!